【糖尿病の治療について】
糖尿病の治療には1)血糖値を改善する治療と、2)糖尿病に合併する疾患の発症や進行を予防する治療とがあります。糖尿病に合併する疾患には血糖値のコントロールに相関して生じる疾患と血糖値のコントロールとは相関しない疾患とがあります。前者の代表的合併症は細小血管障害(神経や眼底や腎臓の細い血管障害)、後者の代表的疾患は、大血管障害(心臓や脳の血管障害)や悪性腫瘍です。糖尿病の治療は血糖値のコントロールと共に、合併症を起こさないようにすること、或いは、すでに生じた合併症の進行を抑制することが重要になります。当院では両方を念頭にした診療を行っています。
糖尿病を指摘されたら、どこで治療を始めるかによってその後の経過には大きな差が出ると言っても過言ではありません。健診で初めて高血糖を指摘された方、他院で治療しているがなかなか血糖が下がらないとお悩みの方は、是非、当院の治療を受けてみてください。
1)血糖値を改善する治療について
糖尿病の血糖コントロールは、まずインスリンの基礎分泌の状態を基に大別します。
体内のインスリン分泌は、食事と無関係に微量分泌しているインスリンの基礎分泌と食事によって生じるインスリンの追加分泌があります。
インスリンの基礎分泌は外来で評価可能で、空腹時で測定する血中Cペプチド(CPR)濃度を基に評価します。この値がある基準値以下の場合には、インスリンの基礎分泌が不足又は枯渇している状態です。基礎分泌が不足していると、追加分泌も不足します。そのためインスリン治療が必須になります。
また、インスリン基礎分泌が十分にあっても、追加分泌が不足しHbA1cが非常に高い状態や経口薬に反応が悪い場合には、インスリン治療を要する場合があります。
★ インスリン自己注射について:
インスリン自己注射というと最初から拒絶される方もありますが、現在のインスリン自己注射は穿刺針が非常に細くなっており痛みがほとんどなく、怖いものではありません。
高齢者でもできるような簡便なペン型になっています。専門医師の下で、適切なタイミングで適切な種類と量のインスリン治療を導入することが重要ですので留意してください。
逆にインスリン自己注射をしていても血糖値がコントロール域に安定しない方は、食事や運動などの生活習慣を再確認し、使用されているインスリンの種類と量と打ち方が適切か否か等、治療方法をみなす必要があります。コントロール不良な2型糖尿病では少量のインスリンと経口薬を併用することで血糖コントロールがより改善されることがよくあります。インスリンを使用してもHbA1cが高い状態が続いている方は、一度、当院の担当医にご相談ください。
★経口糖血糖降下薬について:
経口血糖降下薬はここ数年で著しい進歩を遂げてきました。糖尿病治療の進歩とは治療薬の進歩とも言えます。近年、DPP-4阻害薬やSGLT2阻害薬が使用されてきています。特にSGLT2阻害薬は糖尿病合併症で重要な心血管障害や腎障害に対して抑制的効果が世界の大規模調査で明らかになってきています。更に、SGLT2阻害薬には1型糖尿病にも保険医療下で使用が可能になった薬剤もあり、インスリン療法との併用でより良いコントロールが期待できます。
糖尿病専門医でも薬物療法の仕方は10人10色です。当院に来られる患者様の大部分が既に他の病院やクリニックで治療を受けてコントロールが不良で来られる方です。この処方薬の切り替えこそが2型糖尿病の治療の“鍵“となります。当院では30年以上に及ぶ糖尿病治療経験と最新の学術文献を基にして、個々の患者様の状態に応じた薬の処方を実施します。 「野々垣式処方術」に従って食事療法と経口薬治療を継続されると、ほとんどの方が外来通院で3か月以内に優良な血糖コントロール域になります。また比較的早期の糖尿病腎症(2〜3期)の方は正常化に向かいます。
★食事療法について:
すべてのタイプの糖尿病に必要になります。
糖尿病全般に共通してみられるのは食後血糖値の上昇です。この食後血糖値の上昇は心血管障害や認知機能の低下と関連があることが報告されています。そのため食後の血糖値の上昇を抑制することが合併症の予防に重要です。
糖尿病患者様に共通してみられる食後血糖値の上昇は、摂取する糖質の量に依存します。 特に、液体で糖質を摂取すると血糖値は速やかに上昇しますので、飲料水は無糖のものにしましょう。また、糖質だけにすると食後血糖値が上がりやすくなります。タンパク質源となる食品(大豆、魚等)、乳製品(牛乳、プレーンのヨーグルト)、野菜・キノコ・海藻類をセットでバランスよく摂取する習慣を心がけましょう。
★ 減量法:
糖尿病中で90%以上を占める2型糖尿病は、体型別で言うと肥満型と非肥満型(やせ型)に分かれます。肥満型の2型糖尿病は減量することが治療上、最重要になります。
減量には摂取する糖質量を現在の状態から減らすことが重要です。中年期以降に生じる体重や体脂肪の増加は、摂取する糖質量を減らせば、運動しなくても必ず減らせます。 ごはん、パン、麺類、果物、間食の甘いもの等の量を減らすことが治療の根底に必要です。 食品に関して一般大衆に出ている情報を鵜呑みにせず担当医と相談した上で摂取することをお勧めします。
★ 運動について:
インスリン自己注射をしている方は、身体活動量がインスリンの効き具合に影響します。
また肥満型の2型糖尿病もインスリンの抵抗性の改善に運動が有効になることがあります。
経口薬で治療している高齢者でやせ型の2型糖尿病の方は強い運動が逆効果になり血糖値やHbA1cが高くなることがあります。現在の保険医療では糖尿病に対する運動療法は保険適応になっていませんが、近年、腎臓リハビリテーションとして運動が糖尿病性腎症の進行を抑制することが知られてきて、適度な運動が糖尿病合併症予防に有用となるエビデンスが出てきています。運動の仕方は担当医と相談の上、決めていただくことがよいと思います。
2)糖尿病に合併する疾患の予防
最近10年間の糖尿病者の死因の第1位はがんです。各がんの合併予防に有効性が評価された糖尿病治療薬は現在ありません。従って、この予防には住民健診や職場の健診やドックを定期的に受けられることをお勧めします。当院初診時にHbA1cが高値の人はがんが潜んでいないかを病診連携で精査します。
従来、糖尿病者の死因の第1位だった心血管障害や脳血管障害等の大血管障害はHbA1cとは相関がないことが知られています。これらは糖尿病治療薬の開発と共に減少傾向にありますが、重要な合併症です。この予防には血糖値以外にも、肥満、脂質、血圧等の他の指標も含め総合的に管理することが重要です。中にはHbA1cも体重も脂質も血圧も優良にコントロールされていて、普段は無症状でも、ある日突然、胸が苦しくなり、心血管障害を起こす人があります。そういう人の生活習慣上の共通点として喫煙があります。糖尿病の人は倒れる前に禁煙を心がけましょう。
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